与論島(鹿児島県)
観光で島の地域資源を守り生かす ~与論島の星空ツーリズムの取り組み~
ストーリーの概要(Summary)
1.直面した課題 ・与論島の観光はマリンレジャーを中心とした観光であり、来訪者が夏季に集中してい た。観光振興のためには海以外のコンテンツを造成し、オフシーズンの誘客、来訪者の満足度や観光消費額を向上させる必要があった。
2.実施した主な解決策 それまであまり活用されてこなかった星空に着目。専門機関である和歌山大学と連携し 、新たな観光の目玉として星空ツーリズムを推進した。 地域住民の機運醸成や星空ガイドの育成と併せて、星空をみやすい環境を守るため光害 対策にも取り組んでいる。 また、地元に伝わる天文文化を掘起こし、ツアーで活用することで差別化・魅力化につなげている。
3.結果 ガイド事業者が増加し、新たな経済価値が創出された。 光害対策が実施され地域資源である美しい星空が守られた。 失われつつあった星空文化の保全につながった。
観光地の説明(DESTINATION DESCRIPTION)
与論島を擁する奄美群島は、鹿児島と沖縄の約600kmの海上に位置する島嶼地域である 。中でもその最南端に位置する与論島は、面積20.58平方km、標高97.1m,人口約5,000人の小さな島である。島の周囲を取り囲む珊瑚礁、島内に約60個あるといわれる白い 砂浜と透明度の高い海は「ヨロンブルー」と言われるほど美しく、訪れる観光客を魅了している。とくに大潮の干潮のときだけ沖合にあらわれる「百合が浜」には幻の砂浜として有名で、もっとも多くの観光客が訪れるスポットである。与論島の観光は、海を生かした夏季のマリンレジャーが主流であるが、日本本土や沖縄などの文化が混じった特有の文化があり、国指定重要無形民俗文化財の与論十五夜踊りや地元住民との交流が楽しめる与論献奉なども有名である。
直面した課題(ISSUES FACED)
マリンレジャー以外のコンテンツが少なく、夏場に観光客が集中していた。しかし、航 空機やフェリーなどの交通手段や宿泊施設の容量が限られており、加えて一時期に集中することによる島の生活インフラや環境へのインパクトが問題となっていた。また、マリンレジャー以外に楽しめるコンテンツが少なく、観光による経済波及効果も限定的である。安定した観光産業の振興を図るためには、周年を通じた誘客や観光による消費額や波及効果を高める仕組みづくりが課題となっていた。
課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)
与論島は車や街明かりが少なく、島のどこからでも美しい星空を見ることができる恵まれた環境にある。加えて、新たな開発を必要とせず、自然や地域資源を消費しない持続可能な観光コンテンツとして「星空」に着目した。
しかし、星空に関する住民や観光事業者の関心は低く、有償の星空ガイドや星空ツアーもなかった。星空が観光資源になる、星空をお金に変えるという発想自体がなく、専門 的な知識や経験をもった人材や体制もほとんどなかった。
また、屋外照明の増設やLED化が年々進んでおり、空が明るくなり美しい星空が見える環境も悪化しつつあることがわかった。
そこで、与論町はアストロツーリズムを研究する和歌山大学観光学部と連携協定を締結 し、連携して星空ツーリズムを推進していくことにした。
●地域住民への啓発活動
・まずは地元住民に星空が貴重な地域資源であることを知ってもらい、機運を醸成する必要があった。星空関係者が集まる全国大会の誘致やイベントの企画に取り組んだ。
・地元の学校や図書館、地域の子供会などとも連携し、フォトコンテストの開催や図書 館への関連図書導入、住民や子ども向けの観望会を定期的に実施した。
●星空ガイドの育成
・それまでゼロだった星空ガイドの育成にも着手。全国的な星空ガイド認定制度である 「星空案内人」の認定資格をもつ和歌山大学のサテライト講座として、町内で毎年星空ガイド養成講座を実施。これまでに70名が認定され、人口の1%をこえるまでになっ た。 現在では先に認定を受けた先輩ガイドが認定講座の支援にもかかわるようになった。
・また、行政は、ツアーに必要な機材等の導入支援やツアー割引クーポン等の支援策を併せて実施することで、星空ガイドとして新たに開業する者が増加した。
・島に残る天文にまつわる言い伝え、風習、島唄などを大学と地元の郷土研究会が連携して調査を実施。星空ガイド養成講座のカリキュラムに組み込むことで、造成するツアーの差別化につなげている。将来的には、地元の文化の知識を備えたオリジナルガイドの認定制度を検討中である。
●星の見える環境の保全
・大学の協力のもと、屋外照明の設置状況を調査するとともに、島内に自動計測ポイントを3箇所設置。夜空の暗さのモニタリングと生活や産業などの屋外照明の影響について分析を行っている。
・地元の電気事業者や鉄工所などと連携し、国際基準を満たした屋外照明を試作。星空観望スポットを中心にモデル地区を設置し、屋外照明の取替を行った。また、連携協定を結ぶリゾートホテルでも大学のアドバイスのもと屋外照明の改良・取替を行っている 。
・その成果をもとに、防犯灯メーカーと連携して試作品を開発し、島内に導入予定であ り、国際的な基準を満たす星空保護区の申請をめざしている。
・また、屋外照明の取替は住民との合意形成が重要である。星空ガイドとも連携し、住民向け観望会や星空ツアーにおいても光害対策について組み込んだプログラムを提供するようにしている。
成功の主要因(KEY FACTORS FOR SUCCESS)
●世界的にアストロツーリズムへの関心が高まっている。また、マリンレジャーで訪問する来訪者との親和性も高いコンテンツであり、ツアー参加者は順調に増加している。
●周辺の島々と比べて山が少なく、平坦な地形であることから島のどこかでも大パノラ マで星が見れるうえ、近隣離島に多い毒蛇「ハブ」がいないため、安心して寝そべってみることができる。
●癒しを求めて“ゆったり”過ごしに来る観光客も多い。有名スポット以外にもあらゆるところに星空スポットがあり、少人数制ツアーや貸し切りツアーも多いので、ゆったりと星をみる体制が整えられた。
●当初から専門知識を有する大学と連携して取り組んできたことが大きい。大学のもつ知見やノウハウを生かし、フィールドとして提供することで、新たな産業の創出と持続可能な観光コンテンツの開発につなげることができた。また、大学も研究成果の蓄積や学生の教育・研究フィールドとして活用できた。
得られた知見(LESSONS LEARNED)
●時期的な平準化を図るため、地元にある資源を見つめなおし、持続可能で活用可能な観光資源として「星空」を選定し、コンテンツ造成や地域の受入体制整備などに一体的に取り組んできた。
●その際、地元にノウハウがなかったため、専門機関である和歌山大学観光学部と連携し、大学の知見やノウハウをいかしながら、地域住民や事業者と連携して取り組んできた。
●星空ガイドの組織「夜空のおさんぽガイドの会」が設立され、これまで行政や大学が中心となって行ってきたガイド育成やスキルアップの支援、住民向けの啓発活動などの業務を一部になったり、連携を始めており、自走化に向けて進みつつある。
●ガイドや観光事業者を中心に、星空を守る機運が醸成されつつあり、彼らも協力した啓発活動の結果、意識を持ち始める住民も増え始めている。
●行政では星空保護区の申請をめざしており、島内の屋外照明を改良進める予定であるが、暗い・不安と感じる住民も依然として多いことから、丁寧な説明や合意形成が必要。
成果と実績(RESULTS AND ACHIEVEMENTS)
●新たなコンテンツとして認知度が高まりつつあり、一年を通じてツアー参加者が増加傾向にある。それに伴い「星空ガイド」として起業し独立した者や、マリンレジャーと組み合わせて収益を向上させたもの、宿泊施設のオプションとして高付加価値化につなげたものなど、新たな観光収益となっている。
●星空を守る気運の高まり 星空ツーリズムの高まりにより、観光事業者を中心に貴重な星空という資源を守るという機運が徐々に醸成されつつある。行政や星空ガイドが協力して住民向けの啓発活動を展開するなど、住民全体への機運醸成に向けて取り組みが広まりつつあり、行政では国際基準を満たした光害対応の屋外照明への取替を進める計画であり、星空保護区の申請をめざしている。
他の観光地のためのヒント(TIPS FOR OTHER DESTINATIONS)
・観光の平準化と新たな魅力の創出という明確な課題に対し、地元にある資源を見つめなおし、持続可能な観光資源である「星空」を活用したコンテンツ造成に取り組んだ。
・専門機関である大学と連携して取り組んだことにより、大学の知見やノウハウを活用したことにより、しっかりとしたエビデンスに基づいたプログラムを取り組むことができた。
・大学のアドバイスにより、観光の持続可能性を意識して取り組むことにより、単に新たな観光コンテンツの造成や観光発展だけではなく、その結果として光害の軽減による景観・自然も守ることにつながった。
・行政や大学だけではなく、地域の事業者(ガイドなど)がかかわっていく仕組みをつくった。