大洲市(愛媛県)
消えつつあった古民家の保全-地域参加型コミュニティの形成について-
2010年代後半、大洲市は昔ながらの景観が消滅しそうになっていた市内中心部の再活性化に着手しました。崩れかけていた100年前の住居を残すことが絶対的な優先事項でした。やがて、空き家だった家に店舗や宿泊施設が新たな命を吹き込みましたが、行政は事業が進むにつれ、地域住民の意見に対して傾聴が出来ていないことに気づきました。次の段落では、大洲の再生努力の中でも、地元住民の声に耳を傾け、地域の関係性を改善するという試みについて述べています。将来的に、今後は町として「環境に配慮した取り組み」を強化していく予定です。
地域の概要(DESTINATION DESCRIPTION)
古い景観の残る城下町大洲は、手付かずの自然に恵まれ、数多くの文化的遺産が残っている地域です。地域の中心を流れる肱川が町とその地域の文化を結び付け、大洲の歴史を見守ってきました。
大洲藩は、肱川をお堀に見立てて築城された大洲城のふもとに発展した小さな藩でした。地理的に山に囲まれてた盆地だったため他の地域との交流が少なかったが、20 世紀初頭、地元の和紙、木蠟、絹糸が川の筏に乗って世界へ届けられ、貿易を通じて経済的、文化的に大きな発展を遂げました。新たに得た富は文化の洗練と繊細な建築物の建設をもたらしました。それにもかかわらず、その後の経済拡大はこの地域を衰退させました。
その結果、江戸、明治、大正時代の建造物は何十年もそのままの状態で残されましたが、現在では高齢化による人口減少に加え、地元の建築物の老朽化と衰退により、歴史的建造物を維持するのが難しくなってきました。
大洲は、コンパクトな旧市街地なので、散策しながら日本の歴史を実際に体験することができます。手付かずの自然環境に囲まれており (2 つの国立公園が大洲の周辺にあり)、観光地化されていないので、まだ誰にも知られていないリアルな日本を感じることができます。
直面した課題(ISSUES FACED)
大洲市の地域DMOであるキタMは、2018年から中心市街地の老朽化した古民家の再生を目指し、さまざまな関係者を結集させ、計画を進めてきました。以来、築100年の家を改修し、店舗や宿泊施設に再生することが高く評価され、国内または国際的に認められるようになりました。それにもかかわらず、プロジェクトの発起人を除いて、大洲の活性化事業に対する地元住民の関心はあまり高くありませんでした。実際のところ、多くの家屋の消失を防ぐためには早急な対策が必要でしたので、決断は迅速に下されなければなりませんでした。
しかしある日、住民は、足場と建設現場が大洲の旧地区に設置されていることを知らされることはなく、多くの人は、実際に何が起こっているのかわからないままでした…
キタ・マネジメントの実績がどれほど意義のあることだったとしても、近隣住民の間では不安が広がっていました。情報不足が疑念を生み、それが提案の妨げにつながっていました。このままでは、コミュニティの衰退が懸念されたため、大洲の城下町エリアの活性化の議論に組み込む必要があると考えられました。
課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)
大洲市DMO側の当初の議論は、「住民参加型のまちづくり」の効果的な方法について集中的に議論されました…衰退している町の保全について真剣に関心を持った地域住民を見つけることは困難なことでした。大洲の活性化プロジェクトに関連するトピック(水と都市、マーケティングのデジタル化への取り組み、地域の環境の歴史)を中心とした講座を企画することは、今後協力してくれる地域住民とのファーストコンタクトを確立するのに適切であると判断されました(2021年初頭)。数ヵ月の間の熟考を経て、地元のDMOスタッフによって発案された2つの異なる講座はプラットフォームとして設立されました。両方とも、キタ・マネジメントの試みを補完するアイデアのきっかけとなっています。
-「ディエゴ・アカデミア」(2021年後半~)は、まちと川を再び結びつける必要があるという考えに基づいて、公共空間を中心に参加者で議論しています。
-大洲まちづくり大学(2022年半ば~)は、持続可能な実践を推進することを目的として、地元で活動する事業者が参加して月1回勉強会を実施しています。
第三の目標として、地元の児童や生徒に向けて観光教育を行っています。
これらのプラットフォームは幅広い範囲をカバーし、大洲の観光ニーズと住民の憧れを織り交ぜることを目指しています。
成功の主要因(KEY FACTORS FOR SUCCESS)
このようなコミュニティ活動のおかげで、大洲市は地元のDMOを通じて、城下町エリアの活性化に関する意見交換の場を新たに作り出すことが出来ました。参加者は平均8~10名(ディエゴ・アカデミア)、または20~30名 (大洲まちつくり大学) で、毎月ワークショップが開催されています。
参加者との距離感が、信頼を得るために重要な要素となったのは間違いありません。キタMは地元住民からの意見を吸い上げ、大洲市と連携主体となって、定期的に地元住民(廃屋の家主やキャッスルステイの歓迎レセプションに参加するボランティアなど)と交流しています。ワークショップコーディネーターではあるものの、キタ・マネジメントのスタッフが一方的に話すのではなく参加者全員が意見を出せる場づくりを意識しました。開催側も参加者もオープンマインドで意見交換し、唯一のチームを形成することが目的です。リラックスした雰囲気は、参加者の緊張感を解き、意見しやすい場になると思います。
さまざまな形で表彰されることで、キタ・マネジメントの活動に対する認知度が高まりました。定期的なメディアの露出や国際的な賞賛により、地元の誇りが高まり、進行中の活性化活動に参加する意欲が高まりました。これらは、新しく住民が参加するきっかけにもなり、新しいプラットフォーム (地元の児童や生徒) の開始へのきっかけにもなっています。
3 番目の注目すべき要素は、ワークショップの柔軟な形式です。参加者は、ディスカッションのテーマを設定するだけでなく、ワークショップの運営にも対応する提案も積極的に行っています。理論的な議論ではなく、実践形式を優先することで、ディエゴ・アカデミアのワークショップでの交流の質が変わりました。同様に、まちづくり大学の参加者は良い実践例を発掘することに関心を持っていたため、運営側であるキタ・マネジメントは著名な実践者をワークショップに招待する窓口を設ける必要がありました。
得られた知見(LESSONS LEARNED)
決して簡単な作業ではありませんが、活発な議論を交わし、革新的なアイデアを生み出すためには、参加者のモチベーションを維持することが不可欠でした。貴重なプライベートの時間をまち再生や観光業の強化に関する議論に捧げることは、必ずしも魅力的であるとは限りません。年間の特定の時期に出席者が減少したこともありました。これを克服するために、発表しやすい雰囲気づくりに努めました。つまり、一度ワークショップに参加したことがある参加者を対象に自動的に告知するような形式ではなく、知人と再会するような気軽さを目指しました。
ワークショップの外で自然と親しみながら出かけたり、家族と一緒に映画を楽しんだりするような空間づくりは、グループをまとめるのに一助となりました。
どれだけ優れたアイデアがあっても、アイデアを実現する方法を見つけることは大きなハードルになりました。資金や人材の不足によって、多くの興味深い提案が棚上げされてきました。その意味で、より実践的なアプローチがその後の議論に関わってきます。初期段階で最も重要な解決策を探す代わりに、参加者には、予算の上限やスケジュールの制約などの条件を提供し、これらの要素は今の講座の中でも重要視されるようになりました。その結果、より多くのアイデアが現実化しています。
最後に、ワークショップの会場の性質が議論の結果に驚くほど影響を与えることが判明しました。大洲には利用可能なスペースは歴史的建造物ばかりですが不足していることはなく、さまざまな施設がワークショップで活用されています。しかし、特定の環境は他の環境よりもはるかに生産性が高いことを証明されています。ワークショップを準備する際には、適切な環境(交流やチームワークを促進するカジュアルな空間配置、適切な広さ、飲み物や軽食の休憩など)を注意深く考慮し、準備を進める必要があります。
成果と実績(RESULTS AND ACHIEVEMENTS)
大洲市のコミュニティを活性化のプロセスにワークショップとして組み込むことができたことが、大洲市としての大きな成果と言えるでしょう。
観光客向けに肱川沿いの渡し船の再現した「おおず城下のお舟めぐり」を開始しました(2022年8月から)。何世紀にもわたって地元の生活の一部でしたが、1930 年代以降廃止されました。これらの橋渡しサービスは、大洲の町並みや環境を楽しむ楽しい方法に変わりました。 (大洲・城下町のお船めぐり)
「大洲パスポート」で来訪者のデータを集約し、さらなる来訪を促進するCRMシステムの導入とは別に、まちづくり大学の検討により、市内中心部の商業者(ホテル運営事業者や地域事業者)が連携する2つのプロジェクトを立ち上げることが可能となった。キタ・マネジメントと協力して: 1)事業者や観光名所を含む大洲の城下町エリア全体に無料の給水ステーションのネットワークを設置し、ペットボトルの削減に努め、2) 堆肥化を通じて参加事業者の間で食品廃棄物を削減することを目的とした新しい有機性廃棄物回収システムを導入予定です。( 2023年度まで実施予定)。
他地域でのヒント(TIPS FOR OTHER DESTINATIONS)
キタ・マネジメントのプロジェクトの実施が始まると、そのタスクの新規性と複雑さにより、明らかな想定が明瞭化されていませんでした。まち再生事業の成功には、地域住民との連携が不可欠であることは誰も否定できないでしょう。小さなコミュニティではなおさらです。
大洲市においては、今回の事業の突出や後押しが、地域住民との溝を広げてしまったことは事実で、地域住民には大洲へのまちづくりへ参加権を与えられていなかったことに気づいたのは、激動の変化の中で一度立ち止まり考慮した結果だと思います。コミュニティの再生を!
コミュニティの特定の個人に対して行われていることにフォーカスすることは非常に良いことです。プロジェクトの制作とは直接関わっていない地域住民や子どもたちが、大洲の取り組みをどのように捉えているのでしょうか。彼らはその恩恵を受けているでしょうか。この取り組みは彼らの一部となっているでしょうか。