三好市(徳島県)

3年に一度の祖谷のかずら橋架け替え

ストーリーの概要(Summary)

日本三奇橋の一つとして数えられ、国指定重要有形民俗文化財に指定されている「祖谷のかずら橋」は、四国・徳島・三好市の“秘境”祖谷に架かるシラクチカズラでつくられたつり橋で、長さ45m・幅2m・水面上14m、昔は深山渓谷地帯において対岸に渡る唯一の交通手段だったものが、今では、年間約35万人の観光客が訪れ、渡橋体験できる、三好市の重要な観光資源となっている。かずら橋は、老朽化のためと、その架け替え技術の伝承のために、3年に一度、地元「かずら橋保勝会」によって架け替え作業が行われている。今も自然にある材料(シラクチカズラ)を使って昔ながらのやり方で、ほぼ手作業でこれだけ大きな橋を作っている。材料となるシラクチカズラは、祖谷の山に自生していたものだが、近年は、かずら橋の材料となるだけの量が手に入りにくくなってしまった。そこで、森林管理署と、祖谷のかずら橋架け替え資材確保実行委員会を設置、「木の文化を支える森づくり協定」「祖谷の蔓橋シラクチカズラ資材確保協定」を締結。架け替え資材確保のため、高知県にある国有林から調達すると共に、地元祖谷では、小中学生と一緒に環境学習として、シラクチカズラの苗を育て、東祖谷の国有林に植樹し、資材の地元調達を目指している。伝統的資材の確保と、架け替え技術の伝承による、3年に一度の架け替えを継続することで、コロナ過の影響を受け一時激減することとなったが、地域の自然文化体験を好む外国人来訪者を含め渡橋者数は年間35万人前後を推移している。地元自然林への苗の植樹も200本の活着が確認され、かずら橋の架け替えには樹齢20年は必要と言われるシラクチカズラの生育、資材の地元調達にも一定の目途が立つこととなった。

観光地の説明(DESTINATION DESCRIPTION)

ゆらゆらと揺れる橋を年間約35万人の観光客が渡る、四国の秘境、徳島県三好市西祖谷村にある“祖谷のかずら橋”、日本三奇橋の一つとして数えられていて、重要有形民俗文化財に指定されている。長さ約45m、幅約2m、水面からの高さ約14mに架かる、重さ約6トンにもなる自生のシラクチカズラ(サルナシ) を編み上げて作られている。かずら橋は、その昔、祖谷に逃れた平家の落人が、源氏が攻め寄せた場合に直ちに橋を切り落として、その侵入を防ぐために架けたという説や、弘法大師が祖谷に入山したとき、浮橋が大水で流され困っている村人をご覧になり、丈夫で腐りにくいシラクチカズラを使った吊り橋の架け方を教えて頂いたのだという説など、諸説残っている。深山渓谷に住む人々にとって、大水でも流されない頑丈なかずら橋は、なくてはならない生活道であった。かずら橋は厳しい祖谷の風土と山暮らしの知恵の結晶である。明治の時代には東西祖谷地域に13橋が架かっていたとされる“かずら橋”も、大正時代には全て針金吊橋にかわり、その役目を終えていた。当時の隣町の池田町長の「観光資源としてかずら橋を再興しよう」との声掛けにより、西祖谷善徳青年団、校下青年団の青年たち(後の「かずら橋保勝会」)が現在の場所(西祖谷山村善徳)に、伝統的な資材、工法によるかずら橋を再興したのです。昭和3年3月のことでした。そこには両岸に支点となる大木があり、近くにはシラクチカズラの加工に必要な滝つぼがあり、その他伝統的な架け方に適し、集落間の生活道としても適した場所でした。その後、昭和14年よりは、3か年ごとに架け替えを実施、観光資源として来訪者を迎えるにあたり、伝統的なかずら橋の製作工程を重視し、踏まえながら、安全性と橋の強度や耐久性についても検討を加え、観光資源として渡橋体験について、以降のかずら橋の維持修繕、架け替え経費の財源を目的に、昭和41年からは渡橋料50円を徴収、有料で提供する事となるのです。現在は、四国の“秘境”祖谷の生活と歴史文化を体験できる、観光資源として、その老朽化と、架け替え技術の継承のため、3年に一度、かずら橋保勝会によって、架け替えが行われています。

直面した課題(ISSUES FACED)

国指定重要有形民俗文化財「祖谷の蔓橋」は、シラクチカズラで架けられており、大量の植物性資材を必要とする。観光資源として、歴史的建造物を後世に伝えていくためには、定期的な修理が必要であり、重要文化財の保存修理においては、その架け替え技術の伝承、担い手の確保と共に、従来と同品種、同品質の資材を確保することが必要である。しかし近年は、その修理架け替え用資材の安定的な確保が困難な状況となっている。こうした事態により、従来の地元産材料だけでなく、県外からの確保も必要となり、コスト面等で大きな負担が発生し課題となっている。

課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)

「祖谷のかずら橋」の資材確保は、以下のステップで取り組まれました。 2008年 徳島県三好市と四国森林管理局徳島森林管理署は、祖谷のかずら橋架け替え資材確保実行委員会を設置、市内で調達できなくなったシラクチカズラを、高知県の国有林から調達、森林の整備の上で、木の生育の邪魔になっているカズラを、かずら橋の架け替え資材として無償で提供してもらい、かずら橋保勝会が調達することになりました。 あわせて、地元における資源確保に向けて、「木の文化を支える森づくり協定」を締結、地域の子供たちとともにシラクチカズラの苗木を育て、三好市東祖谷の国有林に植樹する取り組みを始めました。 2017年 苗木は育ち自然林に植樹するも、その生育環境とシカの食害に負け活着が進まないことから、香川大学農学部と徳島森林管理署、三好市で「祖谷の蔓橋シラクチカズラ資材確保協定」を締結、マタタビ属植物の増殖・育成の権威である香川大学片岡教授に指導を受けることになりました。 2019年〜2022年 苗木を育成するには挿し木から育てて約5年間、小中学生と共に東祖谷国有林に植樹。 香川大学片岡教授の指導のもと、シラクチカズラを植栽する箇所の条件(水はけ、陽光)に配慮、ニホンジカの食害を避けるためにシカネットを整備するなど対策をし、見事に活着し、順調に成長している。 これまで15年間で約1500本植樹し、約 200本の活着が確認されている。

成功の主要因(KEY FACTORS FOR SUCCESS)

祖谷のかずら橋等の架け替え資材としてシラクチカズラを育成していくには、概ね20年程度の時間を必要とする。また、育成過程において多くの課題や問題点もある。このため、これらの課題や問題点を解決し、将来にわたって架け替え資材であるシラクチカズラを確実かつ安定的に供給(確保)していくため、マタタビ属植物の増殖・育成の権威である香川大学農学部から技術的支援を得て、シラクチカズラの挿し木の方法、育苗過程での日照・水管理、林内への植付け後の管理などの指導を受けながら、シラクチカズラの育成に取り組んでいる。 植栽は、地域の子供たちに参加してもらうことで、木育と、環境学習、木の文化継承に繋がっている。また、シラクチカズラ(別名:さるなし)の実を活用した商品化についても取り組むこととし、耕作放棄地での栽培に向けて農業従事者を募集、三好市さるなし協議会として、苗木を配り、さるなしの実の栽培を実証。「全国さるなし・こくわサミット協議会」でも活動し、実の活用を通じた地域振興にも取り組んでいる。

得られた知見(LESSONS LEARNED)

架け替え作業の継続 かずら橋保勝会による架け替え技術の継承 架け替え資材の確保 高知県の国有林から調達 市内国有林への植栽 シラクチカズラの生育に良い条件 シカネットの整備 架け替え作業の時期 閑散期である冬季に行うことで、架け替え作業も観光資源に プロジェクトの主な効果 観光資源の安定的な供給 架け替え資材確保・時間の短縮・安全性の確保  地域の子供たちの苗づくり、自然林への植栽、環境学習、木育 シラクチカズラ(さるなし)の実の二次製品開発(ジュース・ワイン等)の可能性 他の市施策への波及 「ウッドスタート宣言」(2019.2.16)地産地消の木製玩具を誕生祝い品として贈る木育事業 三好市森づくり条例 (2019.6) 三好市森づくり基本計画 「千年のかくれんぼ」の森構想 (2020.3) このプロジェクトの成功は、主に以下のステークホルダーに利益をもたらしたと考えます かずら橋の修繕・架け替え作業を担い、技術を継承する“かずら橋保証会”の人材育成と担い手の確保 観光客数が回復していくことによる、市内周辺観光関連事業者の利⽤客増加 地域の子供たちによる植栽「木の文化」継承 ・シラクチカズラ(サルナシ)の実の活用による耕作放棄地の解消、農業従事者の生産意欲の向上

成果と実績(RESULTS AND ACHIEVEMENTS)

・伝統的資材の確保により、文化財・観光資源としての“祖谷のかずら橋”の保存、活用が継続できた。 ・有料で渡橋体験を提供する事で、文化施設を観光資源として、保存、管理、維持修繕、活用することができた。 ・シラクチカズラをこれまで15年間で1500本植樹したがあまり活着しなかったが、三者協定により、香川大学の片岡先生からアドバイスをいただいたおかげで、200本の活着に成功している。 ・かずら橋など地域の自然や歴史文化が外国人に関心を持たれ、年々インバウンド客が増加している。

他の観光地のためのヒント (TIPS FOR OTHER DESTINATIONS)

〇市・国・学による協定で地域の宝を守る 〇地域の文化を継承するため、地域の子供たちに参画してもらう 〇当該事業だけでなく幅広い目で事業を行う・他施策への波及  (さるなしの実の活用、耕作放棄地の再生、森林整備、自然林への転換、 こくわサミットへの参加、木育事業の展開など)