小豆島町(香川県)
オリーブを核とした地域振興
直面した課題(ISSUES FACED)
小豆島が日本における「オリーブの島」と呼ばれていることをご存知でしょうか。瀬戸内海の東部に位置する小豆島は、オリーブ栽培が盛んな地中海沿岸によく似た温暖少雨な気候風土が特徴です。およそ115年前、国策によりオリーブオイルの国内自給が求められ始めた頃、日本各地で試験栽培が行われた結果、国内で唯一、オリーブの生育と結実に成功した場所が、ここ小豆島でした。それ以降、国内でのオリーブ栽培面積及び収穫量第1位のトップランナーとして走り続け、オリーブは島内における食品産業の基盤となり、また戦後は「平和の象徴」として、「観光小豆島」の特徴的な地域資源となって、小豆島の地域社会に欠かすことのできない存在となっていきました。先人たちのたゆまぬ努力と試行錯誤により、「オリーブの島」として全国的に有名になった小豆島ですが、1959年頃より始まった輸入自由化に伴う安価な外国産オリーブ製品の大量流入により、国産オリーブの需要が急激に減少。さらには年々加速する少子高齢化によって生産農家も減少の一途をたどり、小豆島オリーブは、栽培面積、収穫量共に1964年頃をピークに激減してしまいました。(1964→1989:栽培面積106ha→35ha/収穫量405t→16t)
課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)
このような状況の中、小豆島を訪れた観光客からも「オリーブの島と言う割にオリーブが少ない」という声も聞こえるようになりました。そうしたことから、日本のオリーブ栽培発祥の地として、地域の資源であるオリーブを守ろうという気運が高まり、国のオリーブの栽培試験圃場地であった場所を中心に周辺の荒廃農地も併せて公園として整備し、オリーブの保護と育成及び、地域の活性化を図ることを目的とした「オリーブワールド構想」が行政を中心に打ち立てられました。
こうして県立のオリーブ試験圃場の再整備に合わせて1990年に整備された「小豆島オリーブ公園」は、約2,000本のオリーブを栽培する農園としての役割を果たすほか、小豆島のオリーブの歴史に触れることのできる記念館の他、宿泊施設や温浴施設も有するオリーブの総合施設となりました。現在では、眼下に広がるオリーブ畑の先に瀬戸内海を見下ろせる好立地が、まるで地中海を思わせる絶景スポットとして年間38万人を超える観光客が訪れ、まさに「オリーブの島」を印象付ける島内の主要観光地となっています。他にも小豆島町では、町の施策としてオリーブの苗木代を助成し、さらに耕作放棄地をオリーブ圃場として整備するなど、栽培面積の拡大に努めてきました。その結果、オリーブの栽培面積、収穫量共に徐々に回復し、小豆島全体で2010年には栽培面積が、2017年には収穫量が過去最高を更新することとなりました。(2010:栽培面積110ha、収穫量115t/2017:栽培面積143ha、収穫量425t)
成功の主要因(KEY FACTORS FOR SUCCESS)
栽培面積及び収穫量の回復の契機となったのは、2003年、政府が打ち出した施策「構造改革特区(※1)」に旧内海町(※2)がその第1号として「オリーブ振興特区」に認定されたことを受け、これまで法律の規制により困難であった農業生産法人以外の法人の農業経営への参入が可能になったことです。このことにより、日本食離れなどから停滞していた地場産業の醤油・佃煮産業業界がオリーブ栽培に取り組むようになりました。その結果、荒廃農地がオリーブ耕作地へと活用され、栽培面積及び収穫量が増加しただけでなく、新たにオリーブを製品化し販売することで主産業を支える副収入となり、オリーブ以外の地場産業の持続可能性にも繋がるという好循環が生まれました。
(※1)実情に合わなくなった国の規制について地域を限定し改革することにより、構造改革を進め、地域を活性化させることを目的として2002年に創設された制度。
(※2)旧池田町と旧内海町が合併し、現在小豆島町となっている。
得られた知見(LESSONS LEARNED)
オリーブ植栽100周年を迎えた2008年以降、荒廃農地の活用策などで悩む各地方からの視察が急増し、オリーブを通じた地域振興についてのノウハウを共有してきた結果、九州や中国地方など、他産地の市場参入が始まりました。これまで日本のオリーブ栽培の唯一の成功者として位置づけられてきた小豆島ですが、品質の差別化や高付加価値化が求められることになりました。そこで、2008年、小豆島町は日本の自治体で唯一、オリーブによる地域振興を担う専門部署としての「オリーブ課」を設置。翌年以降、主要施策として「オリーブトップワンプロジェクト」を立ち上げ、官民一体となって、小豆島がこれからも日本オリーブのトップランナーであり続けるため、「研究開発」「人材育成」「高付加価値化」「イメージ戦略」の4つを柱に様々な事業に取り組んでいます。このプロジェクトにおいて特に重要視しているのは、地域へのオリーブの魅力発信です。町内の小中学校や病院の給食にエキストラバージンオリーブオイルを使用したり、小豆島の生活をオリーブと共に過ごしていただきたいと願い、出産、結婚、転入など、人生の節目に町からオリーブの苗木をプレゼントしたりするなど、オリーブが当たり前にある生活環境を整えることで、小豆島オリーブに対する誇りを醸成し、次世代のオリーブ産業の担い手の育成や島全体のイメージアップに繋げています。
成果と実績(RESULTS AND ACHIEVEMENTS)
外国産や他の国内産オリーブと小豆島オリーブの違いはその「品質」と「機能性」です。小豆島では、植栽が始まった当初から、一つ一つ手摘みで収穫し、人の目で見極め選果しています。また町内には収穫後すぐに採油できる設備が整えられており、新鮮で高品質なオイルを作ることが可能です。さらに、国内唯一のオリーブの公立研究機関である農業試験場小豆オリーブ研究所があり、国際基準に基づくオリーブオイルの官能評価を行っています。IOC(※3)が定めるオリーブオイルの基準において、エキストラバージンオリーブオイルの定義は酸度が0.8%以下とされていますが、例えば、小豆島オリーブ公園産のものは0.08%と、圧倒的な高品質を誇っています。これら、生産者の丁寧な手仕事と徹底した品質管理が生み出す小豆島産のエキストラバージンオリーブオイルは、「2020ロサンゼルス国際エキストラバージンオリーブオイル品評会」にて小豆島の2社3点が入賞、イタリアの品評会にて高得点を得たオイルのみが掲載される「フロスオレイ世界オリーブガイドブック2021」に小豆島の6社が掲載され、うち2社が日本産の最高得点を獲得するなど、海外の品評会においても高く評価されています。
また、小豆島ではオリーブの機能性に古くから注目し、通常、搾油後には捨てられてしまう残渣や果汁、花や葉、剪定枝ですら、加工を施し利活用しています。特に、搾油後の果実を乾燥させた飼料を与え育てた「オリーブ牛」や粉砕したオリーブの葉を混ぜ込んだ飼料で養殖した「オリーブハマチ」は、香川県を代表するブランド品として知られています。また、剪定した枝葉を粉砕し、1年間発酵させて作った「オリーブ堆肥」でオリーブを生育するという循環型農業の流れも形成されつつあります。近年、人々の健康志向の向上に伴い、日本でも言わずと知れたオリーブですが、私たちは、オリーブが「見知らぬ木」であった時代から向き合い、育て、寄り添ってきました。小豆島の100年は、日本のオリーブの歴史でもあります。この先100年も「オリーブのある美しい景色」後世を残すため、日本のオリーブ栽培発祥の地として他産地を先導する「トップワン」であり続け、オリーブを核とした持続可能な地域づくりに取り組んでいきます。
(※3)インターナショナル・オリーブ・カウンシル オリーブオイル・テーブルオリーブスに関する国際協定(条約・国際商品協定)に基づく世界唯一の政府間国際機関