小国町(熊本県)
鍋ヶ滝公園のオーバーツーリズム対策
直面した課題(ISSUES FACED)
鍋ヶ滝は熊本県小国町にある高さ10m、幅20mの小さな滝です。9万年前の阿蘇山の巨大噴火による火砕流堆積物が長い年月をかけて浸食されたことで形成され、滝の裏側の空間がとても広いことが特徴です。平成26年にユネスコ世界ジオパークに認定された阿蘇ジオパークでも、阿蘇のアースヒストリー:巨大噴火のインパクトや滝の後退プロセスを物語る重要な地球の遺産です。
以前は誰にも知られておらず、観光地化されていない場所が某お茶のCMのロケ地となったことから人気を集め観光客が徐々に訪れるようになりました。当時は駐車場も数台分しかなく、滝までの道も山林の中を地元コミュニティの方が手作業で整備した遊歩道であったため、町が平成21年から公園整備に着手し、地元住民の方とも相談しながら滝周辺の自然景観を損ねないよう、駐車場や直売所、遊歩道を整備し平成24年に完成しました。鍋ヶ滝には地域住民や地元コミュニティ方も深く関わっており、直売所は地元住民により現在運営されており、現在はコロナ禍により中止していますが夜のライトアップイベントは地元コミュニティ主催により実施されています。そのような地域での取り組みもあり鍋ヶ滝は多くのTVや雑誌にも取り上げられ、コロナ禍となる前の令和元年には年間24万人もの観光客が訪れる熊本県を代表する観光スポットになりました。一方で、周辺集落の道路は狭小で車の離合が困難であるため、大型連休時には集落内で大渋滞が発生する事態となり大きな問題となりました。このオーバーツーリズムは地元住民の生活環境や訪れる観光客の満足度の低下など大きな影響を及ぼしています。
そのため町では、平成27年に集落内の廃校跡を活用してシャトルバス送迎をする交通渋滞緩和対策に取組み、一時的に大型連休時の交通渋滞を緩和することができました。しかしながら、その取り組みも新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、不特定多数の観光客がシャトルバス内で密な状態となることやシャトルバス乗り場や公園内が大変混雑するため感染拡大防止の観点から運行を中止。その結果、鍋ヶ滝は大型連休期間を休園しなければならなくなり、右肩上がりで観光客が増加し令和元年に年間24万人にもなった入園者数は令和2年度には約9万人にまで減少しました。鍋ヶ滝公園が今後も観光地としてあり続けるためには、オーバーツーリズムを解消し、地域住民の生活環境が保たれ、観光客にとっても安心して訪れることのできる受入環境を整えていく必要があります。
課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)
事前予約制の取組は、屋内施設や飲食店などではよく導入事例がありますが、屋外施設で、鍋ヶ滝のように農村集落の中にある観光地で予約制を導入している事例はほとんどありませんでした。お客様と地域住民の双方が不利益にならない形で交通渋滞緩和をするためには、単にお客様の入園を制限するだけでなく、駐車場がオーバーしないことも併せて調整していかなければならないため、他地域の事例通りに実施が難しいため、鍋ヶ滝公園独自の予約システムを開発し運用することとしました。
成功の主要因(KEY FACTORS FOR SUCCESS)
・地域住民、地元コミュニティ 交通渋滞緩和対策は地域住民の方のご協力とご理解が必要であり、取り組み内容は随時地域住民の方へ周知しながら実施する必要があります。・ASOおぐに観光協会 町の観光スポットとして観光協会への問い合わせも多く、情報を共有しながら取り組みを進めてきました。また、鍋ヶ滝公園受付業務はASOおぐに観光協会に業務委託しており、予約制に切り替わることでスタッフの業務も変更が生じることから研修会を開催したり、意見交換を行うなど渋滞緩和対策に一緒に取組んでいただいています。・JTB熊本支店 予約システムの業務委託先であり、システムの制度設計や運用方法の構築を担っていただいています。
得られた知見(LESSONS LEARNED)
・予約制の周知 お客様が混乱することなく、スムーズに予約制に移行するため・予約する時間枠と人数の設定 駐車場の容量をオーバーした場合に交通渋滞が発生するため、適切な時間枠と人数を設定するかが重要・大型連休の対策 1日の入園者が3,000人を超えるGWやお盆の時期などの対策は通常時の対応と違った対策が必要となるため
【予約制の周知】予約制導入において一番心配していた点はお客様が如何に混乱なく予約制に切り替えていくかということでした。そのため、事前に新聞、交通、WEBなど様々な媒体で告知を行いました。また、当日、前日に鍋ヶ滝に来る前にも事前に情報を得られるように、町内の公共施設や宿泊施設、飲食店などにもチラシ、ポスターを配布して周知を行いました。また、切り替えのタイミングにお客様から多くのお問い合わせがあることが想定されていたため、役場での問い合わせ対応だけでなく、コールセンターを設置し、予約制の問い合わせや予約の仕方などへの問い合わせ対応ができる体制をとりました。また、現場の対応では、ASOおぐに観光協会、JTB熊本支店の協力もあり、大きな混乱もなく予約制をスタートすることができました。予約制導入後の状況としては、実証実験期間中(R3.11~R4.3)の予約率は50~60%程であり想定以上に事前予約をしてきていただけるお客様が多いことが分かりました。ただし、予約できない方は従来通り窓口での現金支払いという対応となったため、入園者の多い大型連休時には課題を残すこととなりました。
【予約する時間枠と人数の設定】交通渋滞を発生させないためには駐車場の管理が重要となります。鍋ヶ滝に来られるお客様の人数とどのくらい滞在されているのかを想定し、予約する枠の時間と人数を1枠あたり40分、人数は170人に設定しました。これは、123台分の駐車場に対して予約枠ごとに85台使用する計算で、38台分駐車場に余裕を持たせることで、予約をしてこなかった方が来た場合、予約時間よりも早く、又は遅く来たお客様にも対応するためにこのような設定としています。この数値については、予約制開始後に来園者へアンケート調査を行い、入園時間は平均30分30秒でおおよそ想定通りの結果であったことが検証できました。今回、予約制をスタートして混雑する10時~12時の時間帯でも駐車場がオーバーせずに余裕をもって運用できたことは大型連休へ向けていい判断材料となりましたし、予約枠を設定することでピークとなる時間帯の入園者数を分散させる効果も働いていることが確認できました。
【大型連休の対策】予約制導入後、最初の大型連休となるGWに向けて、実証実験の結果を踏まえて以下の対策を実施しました。
・完全予約制の検討 実証実験期間中は秋から冬にかけてのお客様が比較的少ない時期であったことから、WEBからの事前予約と予約できない方は現地での現金払いの併用という運用をしてきましたが、この方法は大型連休時に予約をしていない方が多く来園される可能性が高いために、実証実験期間中の方法では大型連休中は対応できないことが想定されました。そのため、入園者数を管理するために、完全予約制での入園を実施することにしました。しかしながら、完全予約制にする場合は予約ができない方が入園できなくなるため、その対策として道の駅小国ゆうステーション内のASOおぐに観光協会窓口で当日券を発行する仕組みとしました。周知は1ヵ月前から周知を開始し、GW期間中は予約がないと入れないという告知を行いました。
・予約する時間枠と人数の検討 大型連休時は通常時よりもお客様が多くなるため、実証実験期間中に設定した予約枠40分、170人の設定について見直しが必要か検討しました。入園時間は秋から冬にかけて多少長くなる可能性はありましたが、大きな変動はない想定でそのままの設定に、人数については、185人(1割増)に増やすことも検討しましたが、駐車場がオーバーするリスクが高くなることと、予約制を導入してから初めての大型連休となるため入園者数を増やすことよりも安定して稼働させることを優先し、人数設定についても170人のまま設定することとしました。
・現場での対応 完全予約制と知らずに来られる方も多くなるということが想定されたため、鍋ヶ滝公園の集落の途中で予約をされているかどうかの確認をする場所を設けることとしました。これは、鍋ヶ滝公園駐車場まで来られたお客様にその場で確認した場合に、駐車場がオーバーすることが予想されたためです。そのため、集落内の廃校跡のグラウンドを活用して、地元車以外の車は全てグラウンドで予約しているかの確認を行いました。そうすることで、小学校跡から鍋ヶ滝公園までの区間は予約した方しか通行しないという仕組みとすることができました。予約されていない方には、グラウンドで予約方法などを解説したマニュアルを配布し、その場で予約。操作が苦手な方やスマホをお持ちでない、クレジットカードをお持ちでないなどの物理的に予約ができない方は、道の駅ゆうステーション内の観光協会窓口へ当日券をもらいに行ってもらうこととしました。
【GW対策の結果】ゴールデンウィークに来園したお客様は約11,000人で、天候の良かった5/3、5/4は予約枠上限まで達しました。(上限1日1,870人※1枠170人×11枠)。予約の状況は約90%の方が予約をしてきており、旧小学校跡での予約確認もスムーズに実施でき、集落内は通常の平日と変わらない状況で全く交通渋滞が発生することはなくGWの予約制の運用を実施することができました。また、駐車場もピークに多かった時間帯でも駐車場に1割から2割の余裕がある状況でした。しかしながら、予約ができないお客様に片道10分ほどかかる道の駅まで戻っていただく仕組みには、お客様や地元の方からも改善した方がいいとの意見をいただいており、今後夏場の繁忙期に向けて改善が必要とされています。
成果と実績(RESULTS AND ACHIEVEMENTS)
・大型連休時の鍋ヶ滝周辺集落の交通渋滞を解消・予約制にし、時間枠ごとに入園者を分散させる(制限する)ことで鍋ヶ滝公園内において密とならない環境となった。・密にならない環境になったおかげで、踏み荒らしなどが減少し、景観や地質資源などに対しての負荷軽減を実現した
・予約システム導入後の初めての大型連休であるGW期間を完全予約制とすることで、地域内の交通渋滞を解消し、駐車場が満車になることなく、また、公園内においてもお客様が混雑する状況はなかった。予約制における時間枠の設定、時間枠ごとの入園者数も適切な数値であったことを確認することができた。
・交通渋滞解消に伴う鍋ヶ滝周辺の地域住民の生活環境の改善・コロナ禍でも安心して入園できる環境を整備したことにより、観光客の新型コロナウイルス感染リスクを低減。・鍋ヶ滝への観光客数が回復していくことによる、町内観光関連事業者の利用客増加。