那須塩原市(栃木県)
持続可能な観光の推進に向けて~木の俣園地条例の制定
直面した課題(ISSUES FACED)
那須塩原市は、栃木県北部に位置し、塩原温泉及び板室温泉の二つの趣の異なった温泉を有している。塩原温泉郷は開湯から1200年以上の歴史をもち、豊富な泉質が魅力である。古くから多くの文豪や華族が訪れ、また大正天皇の御用邸が建てられるなど歴史的な価値も高い。板室温泉は「下野の薬湯」と呼ばれ、1971年には国民保養温泉地の指定を受けるなど湯治に適した温泉として知られている。また、那須塩原市は、首都圏から2時間程度という立地条件ながらその大半が日光国立公園に位置し、自然型の観光地として首都圏を中心として人気を博している。中でも川底まで透き通る透明度を誇る清流が流れる「木の俣園地」は、昨今のアウトドアブームも相まって夏季には多くの観光客が訪れる人気スポットとなっている。一方、観光客の増加とともに駐車場の不足による渋滞やごみの投棄をはじめとした利用者のマナー低下による環境悪化などの問題が発生している。警察が出動する事態も多く、解決が求められていた。
課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)
交通渋滞については、路肩への無断駐車が散見され、木の俣園地付近の道路形状も相まって危険な状態が恒常化している。また、ごみのポイ捨てやバーベキューの食べ残し、炭の川への投棄、直火での焚火などによる環境悪化については、有志での定期的なゴミ拾いや巡回を実施し対策を講じているが対応に限界が生じていた。こうした状況は、数年前から恒常化しており地元から改善の要望が寄せられていた。交通渋滞対策として、う回路の設定や警備員の配置を行い、改善に努めた。ごみのポイ捨てをはじめとする環境悪化については、地元団体である板室温泉活性化委員会や環境省、栃木県と協力し巡回やごみ拾いなどを行い対策を講じてきた。しかしながら、こうした対策は、抜本的な解決とはならず、現状の体制及び制度ではこれ以上の解決は見込めずかつ規制を行うことも難しかった。そのため、木の俣園地利用のルールを明確化するため条例制定に取り組むこととした。
成功の主要因(KEY FACTORS FOR SUCCESS)
条例制定の骨格としては、禁止行為及び制限行為を明確にするとともに、夏季に限定して駐車料金を徴収し、その収益を木の俣園地の管理保全に充てるというものである。禁止すべき行為としては、生態系に影響を与える火気の使用や騒音の発生等であり、これらを禁止することとした。木の俣園地は国立公園、国有林、河川区域に属しており、それぞれが所管する法令において当該行為を制限する条文がなく上乗せ条例として設定することとしたため、関係行政機関との調整が不可欠であった。また、交通渋滞の要因の一つである路上駐車の解消については、警察との連携が不可欠であり、複数回にわたる協議の結果、木の俣園地付近を駐車禁止区域として設定することとなった。
得られた知見(LESSONS LEARNED)
市の条例制定だけではなく関係行政機関と連携し、一体となって取り組んでいることが重要な点である。条例制定のみでは抜本的な解決には至らず、警察による駐車禁止エリアの設定やパトロールの強化、環境省による支援など一体となって取り組むことで解決に近づくことができると認識している。そしてその核となったのは、地元事業者の熱意である。木の俣園地は、観光資源であると同時に地域にとってかけがえのない宝であり、自分達の子どもや孫その先の世代まで、美しいままの形で引き継ぎたいという思いが、自発的な保全活動へつながり条例制定へと結びついたものである。まさに住民参加の観光地マネジメントであると認識している。
成果と実績(RESULTS AND ACHIEVEMENTS)
条例の施行は、2022年7月1日からであり、現時点では定性的・定量的なデータはない。しかしながら、本条例を制定し、官民一体となって木の俣園地の保全に向かって歩みを進めたことは大きな一歩である。また、観光客に一定の負担をいただき、観光地を保全する仕組みを構築した上で、状況を改善する対策を講じられたことは今後の那須塩原市の観光地経営のモデルとなり得ると考えている。今後も持続可能な観光地を目指し取組を進めていく。