与論島(鹿児島県)
人が来れば来るほどきれいになる島
直面した課題(ISSUES FACED)
与論島を擁する奄美群島は、鹿児島と沖縄の約600kmの海上に位置する島嶼地域である。中でも鹿児島県最南端に位置する与論島は、面積20.58平方km、標高97.1m、人口約 5,000人の周囲をサンゴ礁で囲まれた島であり、島の食文化や慣習、行事などに海が深く関わっており、住民生活と海が密接に関わっているのが特徴である。 与論島の観光は、夏季のマリンレジャーが主流であり、多くの観光事業者が存在するた め、海洋環境の悪化はこれらの事業者が提供するレジャープログラムへの悪影響も懸念される。1980年代のオニヒトデの大量発生や1998年に生じた世界規模のサンゴの白化現象等が環境悪化では特筆すべき課題と位置づけられる。 また、1990~2000年代頃から島内の海岸で目に付き始めた国内および周辺各国から漂着ペットボトル等のプラスティック系の海洋ゴミは、近年の与論島の海岸環境の悪化を招いている。
課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)
与論島の観光の課題解決の契機となったものは、地域の住民や団体、事業者らが地道に続けてきた漂着ごみの清掃活動やサンゴの保全活動であった。地元行政機関もこれらの民間の活動を支援したことが後押しとなり、活動が活発化すると住民とともに活動に参加する観光客も現れ、漂着ごみ清掃やリーフチェックが島の体験プログラムとしても注目されはじめた。その中には、地元住民や観光客が参加し、4週間かけて島のすべての海岸を毎朝清掃しているグループもあり、このような活動が活発化したことにより 、R2年度には44tの漂着ごみが回収されており、漂着ごみを海岸で見かける機会が少なくなった。 また、観光のみならず、与論島の次世代の担い手の育成を視野に、島内の小中高校では 、「海洋教育」を基軸とする総合的な学習も始まっており、漂着ごみのボランティア活動への子供の参加も増えてきている。与論島における海との関わりの見直しは、島嶼地域ならではの観光と環境の両立への意識醸成に資するものとなっている。
成功の主要因(KEY FACTORS FOR SUCCESS)
成功の主要因としては、観光業のみならず地域住民が主体的、継続的に行っている活動に行政も支援を行う一体的な取り組みとなっていること、観光客や子供を含む地元住民などの多様な担い手が参画していることである。 具体的な例として、サンゴの保全活動については、行政の委託事業によるモニタリング 調査や食害生物の駆除などが行われている他、民間団体による自発的なリーフチェックが行われている。漂着ゴミについても、行政が直接行う海岸清掃のほかに、地域住民等が主体的に取り組んでいたボランティア活動があり、行政がゴミ袋などの資材の支援や活動で集めたごみの回収・処分を担っている。 また、活動を紹介したプロモーション動画の制作や新聞、テレビ等の様々な媒体による広範な周知や地元自治体等による表彰が行われているほか、島内の小中高校では総合学習において海洋教育が組み込まれているなど、活動の顕彰と多様な担い手の確保につなげる仕組みが構築されていることも成功要因に挙げられる。 このような活動の広がりは島民のごみに対する意識の高揚にもつながり、観光協会においてビニール袋削減をかねてエコバックを制作したり、飲食店組合においてマイボトル利用促進のためのテイクアウトカップの有料化や給水サービス等の検討も始まっている。
得られた知見(LESSONS LEARNED)
漂着ゴミについては回収後の処理が課題となっていたが、行政がゴミ袋などの資材の支援や活動で集めたごみの回収・処分を担っている。また、活動が広まることによって 、日常的に漂着ゴミを拾う住民や観光客が増えたことから、拾った漂流ごみを入れることができる「拾い箱」を民間団体と行政が連携して主要な海岸に設置した。これにより 、時間に関係なく多くの人が気軽に漂着ごみを拾うことが可能になったことや、拾い箱の設置自体がPRとなり、観光客を含めた意識啓発や参加者の増加につながっている。 なお、このような海の環境保全や海洋教育の活動に対し、行政が支援を行うには財源の確保が課題であったが、その一部に「ふるさと納税」を積極的に活用した点は特徴的である。 ※「ふるさと納税」:居住地に限らず応援したい地域に納税できる制度で、間接的に町づくりや環境保全などといった活動を支援することができる仕組みとなっている。
成果と実績(RESULTS AND ACHIEVEMENTS)
漂着ごみの活動が広く知られるようになったことで、代表的なグループの活動への参加人数は2017年度2,385名から2019年度には3,298人まで年々増加している。このように参加者や活動頻度が増えることにより、目につきやすい大きなごみだけではなく、マイクロプラスチックまで回収できるようになりつつある。また、サンゴのモニタリング調査については、民間・行政合わせて年14回程度が行われている。中でも民間が行うリーフチェックには、島内外のボランティアダイバー30名前後が毎年参加しており、年々若い世代の新しい参加者も増えるなど、環境意識の高い優良な旅行者の誘致や交流人口の増加にもつながっている。 また、活動の成果として、行政や漁協、観光協会等の関係機関や民間団体、大学等が連携し 、サンゴ回復に向けた調査事業や試験的なサンゴ増殖の取り組み、投錨によるサンゴ損傷を防ぐための渓流ブイの設置、ダイバーによる海中ごみ拾いなどの活動へと展開してきている 。
・2015年 民間団体「誇れるふるさとネットワーク」が行う漂着ゴミ拾い活動「365日ごみ拾い」が「YOUNG JAPAN ACTION 浅田真央×住友生命」奨励賞受賞
・2019年 環境省・日本財団が主催する「海ごみゼロアワード」で拾い箱の取組が表彰
・2019年 海ごみ拾いボランティア活動を行っているグループ「海謝美」が、鹿児島県「きれいな観光地づくり表彰」を受賞