佐渡市(新潟県)
文化と歴史が香る島での生物多様性とエコアイランドの取組
直面した課題(ISSUES FACED)
佐渡と言えばトキの住む島。佐渡への観光客の多くがトキを見ることを目的の一つにしています。今でこそ佐渡島の空に見ることができるようになりましたが、かつては日本全国で生 息していたものの、工業化のための環境汚染や森林開拓、効率的な農作のための農薬の使用 などで数を減らしていきました。1981年に自然界に残る5羽すべてを保護しましたが繁殖には至らず、日本産のトキは2003年に絶滅してしまいます。しかし、1999年に中国から1 組のつがいが贈呈され、このつがいからの繁殖に成功したのです。このつがいからの繁殖、 また中国から新しいつがいを借りたり、ふ化したひなを送り返すなど協力して人口飼育下での繁殖が進み、2008年に初めて自然界に10羽のトキを放鳥することができました。 放鳥後、貴重な鳥が自然界にいるということで、全国から野鳥ファンやその他トキを見ようという人々が大勢島にやってきました。しかし、生息地は仕切りの無い一般の地。どこにいるのか探し、見つけたときには近づきたい、飛んでいる姿を写真に撮りたい等の理由で近づいたり車で追いかけたり、わざと大きな音を出すなどの問題が見られるようになりました 。 また、放鳥するための準備として、トキたちが餌を食べられる環境も整えなくてはいけませんでした。
課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)
音や環境に敏感なトキを観察するためのルールを設ける必要がありました。そこで「トキ との共生ルール」を設け、パンフレットやホームページ、飼育下のトキを観察できる施設「 トキの森公園」などで紹介したり、地元のトキに関する知識を持ったグループ「トキガイド 」と協力し、トキの生息地周辺で観察をしながら観光客や地元の子供たちに紹介を進めてい きました。観光案内所でも自転車を貸し出し、より静かでエコロジカルな方法で観察をおす すめしています。特に伝統的建造物保存地区の宿根木のある小木地区では、より走行性の高いE-バイクも取り入れ、公共交通の不足の助けとなり広い範囲の観光地への足として活躍しています。(以前提出から変えてあります) また、トキが自然界で生きていくための環境作りについて環境庁を中心に新潟県や佐渡の人たちと共に考え「野生復帰ビジョン」を策定しました。これと同時に佐渡では農薬を減らした農法で作られた「朱鷺と暮らす郷作り認証制度」を立ち上げ、その中に5つの要件を満 たす「生き物を育む農法」を定め、行政を市民が一体となって取り組む仕組みを作りました 。この農法で作られた米は「朱鷺とくらす郷づくり認証米」として認証マークが付けられブ ランド化されています。佐渡島内の宿泊施設でも積極的に取り入れられています。またこの認証米だけでなく、認証米を使用した菓子にも認証マークを付けて販売し、経済循環にもつなげています。
成功の主要因(KEY FACTORS FOR SUCCESS)
また、トキが自然界で生きていくための環境作りについて環境庁を中心に新潟県や佐渡の人たちと共に考え「野生復帰ビジョン」を策定しました。これと同時に佐渡では農薬を減らした農法で作られた「朱鷺と暮らす郷作り認証制度」を立ち上げ、その中に5つの要件を満た す「生き物を育む農法」を定め、行政を市民が一体となって取り組む仕組みを作りました。 この農法で作られた米は「朱鷺とくらす郷づくり認証米」として認証マークが付けられブランド化され、佐渡島内の宿泊施設でも積極的に取り入れられることとなりました。またこの認証米だけでなく、地元の製菓店が認証米を使用した菓子にも認証マークを付けて販売し、 地域の経済循環にもつなげています。
得られた知見(LESSONS LEARNED)
50%以上の農薬を減らす農法や畔の除草を除草剤ではなく刈り取りで行うなど、それまで効率的に農業を行っていた農家にとってはとても負担になる計画でありました。しかし地元 の小学校でのビオトープ作りや生き物調査などの観光体験メニュー、大学での森林を守るための研究、また島民によるトキとの共生についての話合いを通し自然環境や生態系への意識 がより身近なものとなり、どのように暮らしていくかという生活行動や観光での態度そのものを見直すきっかけとなりました。
成果と実績(RESULTS AND ACHIEVEMENTS)
2008年に島内の作付面積の7.2パーセント(米作農家の3.6パーセント)でスタートした「生 き物を育む農法」は農家の高齢化による波を受けながらも現在作付面積を約20パーセントを維持しながら継続されています。(米作農家9.2パーセント。ピーク時 2012年 作付24.4 パーセント、農家 11パーセント)。今では島内の主要な農法の一つとなり、田んぼ周辺の環境が整うことで餌場となる水辺周辺の豊かな生態系が保たれるようになりました。この農法の広がりはかつて金銀山の発展と人口急増のための食糧確保のために切り開かれた山間の棚田にまで及んでいます。現在では自然界に450羽を超える時が生息し、より身近な里山の鳥となりました。 人工飼育課のトキを観察できるトキの森公園への入館者も放鳥前は年間10万人に満たない数でしたが、放鳥後は毎年10万人を超え、年によっては20万人を超えるほど多くの方に訪れていただいています。 元々稲作の盛んな佐渡では人々によってもたらされた文化が豊作への祈りと結びつき、能や鬼太鼓等様々な芸能となり、今も島の各地に独自性をもって伝えられています。この生物多様施保全型の農法と農業経済の連携、棚田などの美しい景観、昔から受け継がれる伝統的な農文化と農村コミュニティーの保全などが評価され2011年には佐渡島全体が日本で初めて世界農業遺産(GIAHS)に認定されました。 安全でおいしい食があること、古き良き文化や景色が残ること、またここに住む人々がそ の価値を日々の生活の中に継承する環境は世界中の多くの観光客を魅了しています。