
千曲市(長野県)

地域と未来をつなぐ「NEO ネオン」
観光地の説明(DESTINATION DESCRIPTION)
千曲市「戸倉上山田温泉」は、開湯120年を誇り源泉を50以上も持つ、信州屈指の温泉街である。東西を里山に囲まれ、千曲川のほとりに形成される、自然豊かな温泉街である。
また、温泉街には70件を超えるスナックが現存し、昭和レトロな町並みも温泉街の特徴と言える。
スナックが多く存在することにより、スナック街によるネオン看板は温泉街の景観を形成し、温泉宿泊客のナイトタイムコンテンツなど温泉街のアイデンティティを維持している。また地域住人のコミュニティとしての機能や、温泉街の雇用創生の役割も担っている。
ストーリー(Summary of GoodPractice Story:)
信州屈指の温泉街である「戸倉上山田温泉」には、現在でも70件以上のスナックがあり、レトロなネオン看板などが形成する景観は、温泉街のアイデンティティを確立している。
近年、旅行形態の変化などに伴い衰退し、旅行客の減少・高齢化により、活動を維持するのが難しくなってきている。
千曲市ではこれらの文化を維持するため、温泉街に多数残るスナック文化を活用し「NEOネオンプロジェクト」を行い、温泉街のアイデンティティの確立、地域コミュニティの維持を図る取り組みを行っている。
課題(Issues faced)
■戸倉上山田温泉街の飲食店舗数の減少
旅行形態の変化や、近年のコロナウイルスの影響により、地元民・観光客から長年愛される店舗も廃業を余儀なくされ、スナック文化の衰退が加速している。これにより、空き店舗などが増加し温泉街の景観の維持が難しくなっている。その結果、温泉街の存続も危ぶまれている
(戸倉上山田商工会飲食部会会員数 2013年89軒 2022年64軒)
■日本人観光客の高齢化による、将来的な観光客の大幅減少の懸念
観光客の約55%が60代以上と、当地域への来訪者の高齢化が年々進行している一方で、30代以下の若年層が占める割合は14%と非常に低い数字である(令和元年度)。また、当地域では観光客の54%が訪問回数2回以上であり、安定したリピーターによって観光業が成り立ってきた地域である。そのため、若年層の取り込みを確立できなければ、既存の高齢リピーターの来訪が期待できなくなった際、来訪者数が大幅に減少することが予想される。
■確固たるブランドが確立されておらず、認知度が低い
戸倉上山田温泉は、「温泉療法医がすすめる名湯百選」に数えられ、美肌の湯としても知られている。しかし、その他に誘客の起爆剤となるようなパワーワードに欠け、他温泉地域との差別化を図れていない。元来の地域資源を生かしつつ、「戸倉上山田温泉に行くため」の動機づけとなるようなキーコンテンツを造成することが、喫緊の課題であるといえる。
解決策(Solution)
上記を解決するための取り組みとして、信州千曲観光局は「NEOネオンプロジェクト」を行っている。
当プロジェクトは、温泉街に多数残る、スナック文化を活用し、温泉街のアイデンティティの確立、地域コミュニティの維持を図っている。
戸倉上山田温泉にとってネオン街はレトロなまちの雰囲気を作る核となるもので、本プロジェクトによりスナックの遊び方、入り方をわかりやすく、楽しみやすくすることで、スナックへ訪れる顧客を増やすことができる。
また、昭和レトロな町並み・スナック文化をコンテンツ化することで、新たな若い世代のファンを取り込むことにより、新たな世代の観光客獲得を目指し、観光客の高齢化による問題解決にもつなげる。
これらの取り組みにより、スナックへ訪れる観光客を増加させ、スナック店舗の収益につなげていくことで、廃業などを防ぎ、温泉街や街並みの維持につなげる。
併せて、旅行者が旅先の地域性を把握する最良の手段は地元民との交流であり、スナックという気の置けない空間でのコミュニケーションは、千曲ファンひいては移住者の創出に繋がる。また、スナックを通したナイトタイムエコノミーの提唱は、旅行者のみならず地元民の利用(消費活動)を促し、地域全体の活性化に期待が持てる。
課題解決の対策方法、ステップ、ツール(METHODS, STEPS AND TOOLS APPLIED)
・NEOネオン事業の概要
① スナック紹介のためのホームページ作成を行い、料金体系や営業時間、イメージ写真などを掲載することにより、観光客がスナックへ訪れやすい仕組みを整えた。
② 今までスナックに訪れたことのない方々を対象に、スナック巡りツアーや体験ツアーなどを開催し、新たな顧客獲得を目指す。
③ 宿泊事業者・飲食事業者を対象に説明会、スナック体験のモニターツアーを開催することで、地域での事業理解を深め、継続性を高める
④ 地域外の、いまだスナックに訪れたことのない顧客に対し事業の説明会を開催することで、新たな顧客の獲得を行い、同様の資源を持つ他地域との交流を図り、当事業の波及にも努める。
下記のような方法でこれらの事業を進めた
・スナック店舗への説明
→初めに、温泉街のスナック店舗の参画を募るため、事業の説明、事業を行う意義の説明を行った
説明対象は、観光局の会員となっているスナック20件へ行った。開始当初は初の取り組みを理解していただくのに苦戦し、粘り強く交渉を重ねた
・地域のステークホルダーの巻き込み
→温泉街で事業を行うにあたって、様々なステークホルダー(戸倉上山田温泉旅館組合連合会、戸倉上山田社交飲食業生活衛生同業組合、千曲市観光課)の巻き込み、地域住人への説明会を開催し、地元事業者への事業理解を得た。これにより、宿泊施設等のホームページで紹介していただき、取り組みを拡大した
・NEOネオンブランドの確立
→専用HPを作成し、NEOネオンのイメージを具現化し、他地域にて説明会を定期的に開催することで、積極的な発信を行い、ブランドの確立を図った。また、定期的にスナックを活用したツアーを開催することで、新たな顧客の獲得にも努め、様々な世代への発信にも努めた
・地元住人などのコミュニティへの浸透
→地元事業者への事業理解を深めるため、飲食業・宿泊事業者・地元住民向けのスナック体験ツアーを開催した。これにより、受け入れ側の事業理解を深め、観光客・受け入れ事業者双方良しの事業体系を構築した。結果、飲食店や旅館へのポスター掲示や、HPへの掲載など協力を得られた
結果(Achievements and Results:)
これらの取り組みにより、「NEOネオン事業」に参画した店舗は、現在では17店舗となり観光局の会員となっているスナックの内85%が参画している(17件/20件)
また、開催したスナック体験ツアー数は7回、延べ80名ほどの参加者を集めた。
観光局が毎年調査を行っている「来訪者満足度調査」では、20代・30代の来訪者が全体の25%以上となった。これらの結果より、減少傾向にあり獲得を必要としている、30代以下の若年層へ訴求ができていると考えられる。
メディア掲載実績としてテレビやラジオ、地元新聞紙面、雑誌など、およそ30件の掲載実績ができた。これにより、当温泉街の新たなコンテンツを確立し、他の温泉街との差別化にも成功したと言える。
温泉街に点在する、スナックや飲食店のネオン看板が形成する、当温泉街特有の景観を活用し、若年層(20代・30代)をターゲットとした事業を行ったことにより、温泉街を殺制した写真などを用いたSNS投稿数なども増加している。これは若者が若者を呼ぶ観光地になってきていると言える。
当事業によるブランディングを通じて、スナックなどの店舗へお客様を送ることで、店舗の収益につなげた。これにより、参画店舗のさらなる理解を深め、廃業や失業に追い込まれる店舗を削減したともいえる。
学んだ教訓とアドバイス(LESSONS LEARNED)
遊休資産の掘り起こしの可能性と、ナイトタイムコンテンツの重要性を再認識することができた。
→温泉街に存在する“スナック文化”に光を当てることにより、新たな顧客層の獲得・リピーターの獲得につなげることができた。また、ナイトタイムコンテンツとしてスナックツアーなどを開催することで、宿泊客の獲得にもつなげ、ひいては温泉街の活性化にもつなげる。併せて、スナックへの来客数が増えることで、店舗の経営も維持され、温泉街にて形成されている昭和レトロな風景という、アイデンティティの確立にもつなげた。
同様のスナック街・繁華街を形成する地域は、当温泉街以外にも多数点在している。これらの地域にて、当プロジェクトを普及していくことにより、全国的なムーブメントにもつなげ、さらなる活性化にも寄与できる。
評価とその他の参考資料(RECOGNITIONS AND ADDITIONAL REFERENCES)
NEOネオンプロジェクトホームページ
https://neoneon.jp/
メディア掲載情報
https://neoneon.jp/?page_id=4378
2023年来場者満足度調査結果
https://chikuma-kanko.com/wp-content/uploads/2024/05/1c0015bf2119f2f9356550dcb536e5b5-1.pdf